AVを借りに出かけた冬の日の記憶

道を歩いていると、肩のパラついていた雨に、明日のことを考える余裕すらもなくしていた。街には、坂道は無く、そして平坦だった。埼玉のように自転車さえあればどこまでも行けるような気にもなる。それ以上に、家賃自体はやや高めなのだが。満開になったというのに、桜たちは、このところの変わりやすい天気で、僕の感覚では、散っていくような気がしていた。やはり五分咲きぐらいで見に行くべきだった。そんなことを思うけれど、咲いたと思ったら散っていったような年も僕はあったような気がするのだ。満開になった桜トンネルのアーチをくぐるには、運と、タイミングを見計らえるセンスのないことには、困難だ。僕はそんなことを思っていた。雨が、外では降り続いていたのだ。ほんの少しだけ、ビルの影に、車のような音も、混じっているように思える。僕はそばに置いていたモナンミントシロップの炭酸割りを飲み干して他愛のないことを少しだけ考える。流れていた音楽は、気がつくといつの間にか止まっていた。

僕は空にしたコップを片付けて、立ち上がろうとするとき、僕の眠りに入る準備をするために、存在する寒さを、少しだけ、感じているような気がする。それとも僕の勘違いなのだろうか。春はスポーツに向いた季節だと誰にも言われたことがないのはなぜだろう。でも、その風は、秋と違って、確かに冷たかった。そういった理由があるからなのかもしれない。