
ただ誰もいない日をさまよっていた。街で、特にすることもなく。何かをしようとしていたのかもしれないし、そうではなかったのかもしれない。ただ、一人でいることに、少しだけ疲れていた。ただ、ティッシュペーパーを、必死で探していた。それは、残り一箱と、家ではまずい状況になっていた。トレペを代用すると炎症が起きてしまうほどの敏感肌の僕だった。ただ鼻より、尻がふけないことのほうが面倒な話ではある。ネットで探すと、5箱で1200円と高すぎた。しかし武漢の状況を調べると突然死した死体がいくつも道端に転がっているというすでに異常な状況でもある。病院には、診察を受けられない患者が大量に溢れているのだ。だが、なぜそのような苦しい状況になったのかを考えると、中国の大気汚染によるものも大きいような気がさせられた。近代化によってコウモリの生きる場所を狭めてしまうことで、このようなウイルスの拡散を彼ら自身にもたらしたのではないだろうか…。僕は、そんなことを考えながら肩をすくめて、まだ、肌寒い風の吹く街を歩いていたのである。ピムズのライブイベントに行こうかと思っていたが、人混みは危険なので無理だと考えていた。マスク自体ないし、だいいちこの歳だと、そこにいる事自体が虚しかった。
そのようなわけで、僕は淡々と隣町まで歩いていた。雨が降っていないのが、唯一の救いではある。誰かと、ふいにすれ違うことも、少ない。目的は、ティッシュがあるのかどうかの一点だったが、やはり薬局にはなかった。店にいる人を見かける事自体も少ない。そして帰りの電車にのりながら、このような状況が続くとどうなるのかを、一人で考えていた。デフレではないにしても、物の価値がすでに上がり始めている。特に、自分の家に溜め込んでおけるようなものが。ティッシュのみならず国内や中国からの供給が少なくなることで、物の値段は確実に上がることだろう。そのような何も手にすることができなかった一日の終わりに、過度に行き過ぎたネットを中心とした物流世界の地盤が崩れるような足音を、今回のコロナ騒動から僕は痛烈に感じとっていた。