

ぼんやりと不動前で降りて、昔住んでいたマンションの周りを、ひとりで歩いていた。実は、あのあたりはリーズナブルで美味しいお店が密集している。山手通りも目の前ということもありどことなく少しだけ都会的な雰囲気を感じさせられる場所でもある。以前から目をつけていたカフェがあり、入ろうかと思っていたが、満員だった。そこは、どうやら暇そうな若者たちの集いの場と化してしまったようだった。しかしまあ、わざわざ不動前まで何かを食いに来ようという気も昔のようには起きず、家でコトをすませてしまうことが多くなった。そのような外食にいつのまにか新鮮味を感じさせられなくなってしまったようである。それでも、街の多くは、住んでいた頃の昔のままであり、目黒川が流れていて、レンタカー屋があり、DNPや富士フィルムがあったりした。僕は十年ぐらい前にそこでライターの見習いをしていたのである。そこに入って働いていた日も、やめた日も、同じように、静かに流れる目黒川の横を自転車で走っていったものだった。僕は、あのような会社に入っていなかったら、どうなっていただろう。まだ、よく行っていた中国人の店員のいるラーメン屋はあった。パチンコ屋は、スーパーに変わってしまった。ますます、休日に、男たちやおじさんの行くような場所がなくなってしまっていた。
ファッションデザインの工房の角を曲がり、駅の方に向かって、立ち止まる。風が冷たかった。大きな看板のスシローに入ってみたかったが、値段が、外からはまったくよくわからない。大崎方面に向かうと、海に向かって空が開けてくる。しかし、このあたりは子供も多いエリアで、家族連れで賑わっている公園も多かった。しかし、どこか、何かがかけているように感じられるのは、マンションに、オフィスビルがきっとそびえているからだろう。川の側道は、木々がたくましくそびえ、石畳が盛り上がっていたりした。盛り上がりはベトナムほどではないけれど、すれ違う人の怪しい視線を感じないのは日本国内の安全性の象徴である。しかし、五反田が近いので怪しい視線の女性もすくなくはない。GUのスキニーデニムが、特徴としてはあげられる。品川あたりまで来ると、ほとんど工業地帯のようであり、潮風に赤茶けたような建物が見えるようになってくる。野鳥が闇の中でけたたましく動いている、その大きな音。普段は耳にできない生物がそこにはいるようだった。ボラでも食べているのだろうと考えた。こういった出会いは言語や情報を越えた新しい面白さを僕に与えてくれるものだ。むしろ冬の街は静かすぎる、寂しい趣だったけれど。