
誰もいない午後。そして、外には風が吹いている。僕は、自分であるということを考えていた。昔フランスを旅した日のように…。航空機から見下ろした麦畑。ロープのように、どこまでも細く曲がりくねっている道。窓の外には、風に揺れる、よく手入れされた芝生が茂っていた。無愛想な動きの無人の電車に乗って、それから、僕は駅までの通路を移動したのだった。英語の理解できないおばあさんからやっと手に入れた切符で、市街へ向かう電車に乗る。どこか映画で見たことのある車庫と、線路の織りなす、モノクロの風景の中。ただ、フランスはバックパッカーにとっても、いろいろと厄介な国であるようにも思える。僕がドミトリーのベッドにたどり着くと、死んだように眠ったあの日。ベッドを降りると、そこで子供や、かわいい顔の若い女性が出迎えてくれた、どこか希望に満ちているように感じられた部屋…。
また時には、僕はロンドンの交差点を、友人と二人で歩いていたものだった。僕らは、飲食店の軽い食事であらかた金を吸い上げられたあとでベッドで寝ていた。そして、長すぎたフライトと、大きすぎた時差に、心地よいベッドの上で、風呂にも入ることができないまま、朝を迎えた。僕らは朝が来ると早速行動を開始した。ホテルのロビーで少しオイリーでしょっぱすぎる、そんな酒のつまみのような朝食をまずは食べた。そこでコップを割るスタッフを見かけたことを覚えている。しかし、友人は、酒飲みなのでUKにおける食事があっているようだった。私には、味気なくて微妙だったが。通りはベネトンなどがあり、モダンと言うよりは、白くて都会的な雰囲気だったことをよく覚えている。季節は夏。僕は来る直前に会社を辞めていたのだった。帰国すると、神奈川にすぐに引っ越した。それにしても、ロンドンで見た風景は、何だったのだろう。テート・モダンギャラリーや、サーチ・ギャラリー。サメのホルマリン漬けのポスターを、そこで手に入れた。ダミアン・ハーストの日本ではまず見られない巨大な彫刻作品を拝むことができた。見たり感じたものすべてに見応えがあったということを、実感していたものだった。