桜の下で

突然寒くなったので、体の調子が悪かった。そして、花見に行くのもためらうほどだった。近所の桜は見たけれど。去年も見た、同じ桜だった。派手さはないが、枝がカーブしているところが美しい。そして、花の一つ一つが。ヤマト便、芝の敷かれた工場の敷地にも花が、いくつか見えた。よく晴れていた気もする。雲一つ無い空は去年の暑かった夏を予感させた。アスファルトの上を焦がした光を。僕はそこを歩きながら、何を考えていたのだろうか。何も、今は確かには覚えていないけれど。しかし、温度というのは感覚でありながらもすぐに忘れてしまうものだ。桜はまだ咲いていない枝も多くあった。冬にはいなかった鴨が、川にはいたりする。波紋を立てて泳いでいた。昔見たことがあったような景色だった。僕のまだ故郷で暮らしていた頃の沼で見た気がする。思うことはいつも断片的で、その先をたどることはできない。ただ、眠気が途中で襲ってくるのだというわけではなかった。