夏みかんの記憶

今日は少し歩いたが、帰り道の外国人とはすれ違わなかった。数十年前にバイトしていた頃に、これから出勤する人とすれ違ったときのことを思い出しながら。夜間のほうが時給は良かったけれど。昼番だった僕はバスに乗って、帰った。光る、厚木の街を。光回線が、まだ珍しかった頃だったと思う。さかんに、打たれていた広告。立ち止まってそれを見ていた僕も、キャンペーンに乗って。まだあった、パルコに寄って、靴を買ったことを覚えている。すぐにだめになってしまった靴だったけれど。
道を歩いていると、昔のことが、そんなふうに、そばにあるように感じられた。今でもそこに、同じような景色があるのだろう。同じ人はもうそこにはいないのだけれど。春めいた街は、はしゃぐような声が、そこから今日も聞こえた。桜も咲いていた。真の自分の姿を忘れたように、街はどこに行くのだろう。心に傷を持つことさえも忘れて。自分が存在することさえも。虫けらのような思いで、でも、僕は生きていきたいと思うのだ‥