ぼんやりと隣町に向かって歩いていると、倉庫の脇を通る道で、特に何もそこに感じることもなく歩いていた。そしてわりと長い道なので自分がこれからどうするべきなのかを思ったりもしていた。何かが、意味深く進んでいるようにも思える。昨日までの晴れていた空はすでに曇り空で光もなく少しだけ寒い、そして道はどこまで行っても同じ郊外特有の景観が続いている、そこで見るべきものは、何もないことを感じていた。酒精工場からの匂いもなく、ランナーの数もいつのまにか、すでに減ったもので、顔を上げた僕は昔目黒で行っていた美容室の人のことを思い出す、そして耳を切られたことのある人のことを。通い慣れた商店街で僕のことを知る人はいないだろう、あの喫茶店も潰れてしまった。大通りの向こうにあった店の記憶はすでに霞んでいるけれど、木が何本か生えていたことだけは覚えていた。植物をいくつか入手したことのある店も近くにはあって、それを持って、自転車で帰った時のことを、よく覚えている。キッチン雑貨を手に入れたり木材を手に入れたことのある店の一階に鉢のスペースはあったものだった。看板には、古風なフォントで、店の名前が綴られていた。商店街を進むと、クセになる味の喫茶店があったが、今はもう無い。僕はそこで良くマンガを読みながらコーヒーを飲んでいたことがある。今でも、その味を思い出すことがあるその店は、すでにないのだが。ボロボロのソファーの上でコーヒーを飲んでいたことをよく覚えている、そこから商店街はもう、無く、品川に続く坂がその先にはあった。
僕のことを覚えている人は、すでにいないのだろう。人間であることは、不確かな気がする。今朝将棋を見ながら、思っていた。僕ならコマを、どこに打つのだろうかと、でも高校時代はよく授業中に打っていたりした友達の記憶。僕はあのクラスメイトと、もう少し話をしていれば良かったというふうに思わされていた。鼻先を過ぎる風はすでに春の様相に思える、道を歩いていると時々感じられる、息吹のようなもの。こういった日に選挙があると投票率は減るような気がする、そんなことは選挙運営側は気にしないのだろうけれど。そんなことを思いながら今日は歩いていた。