帰りのバスを降りてから

昼は部屋に閉じこもっている事が多い。窓の外を見ると、いつも行き交っている人が見えた。屋根が、日差しを浴びて輝いていた。こういった景色を拝めるのも郊外ならではの特権かもしれない、都内では意外と高層住宅自体に住むのが難しかったからだ。僕は日が暮れると開いたままのカーテンの向こうに、暮れゆく街並みを見ていることがあった。ひとつひとつの明かりの中にどのような暮らしがあるのだろうと思っていた。僕は夜のカーテンを閉めると、ラジオの声に耳を傾けながら、もう、明日のことを考えているときの中にいた。僕はそれから、思いにふけるのである。夏の日に歩いたことのある、逗子の街を歩く。バスで途中下車して神社の近くから海への道を歩いた。遠くに、カヤックをしている人、磯の近くに建てられている社に足を止める。僕の当時の業務に疲れ切っている体と、ヨロヨロとしていた足取りを思い出す。釜揚げしらすの店は今はもう無い。そこで食べたのは一度切りで、もう、行くことはないのだ。どんな料理なのかさえも思い出せない。トイレに向かうために立ち上がると、ストーブをつけていたので少しだけ通路は暖かかった。夏の一日もこんな気温だったような気がすると、僕は、目を細めてみるけれど、よく思い出せなかった。そして、生きていることの感覚の曖昧さの中で、受験生だった頃のことを思い出していた。少しだけ冷気が漂っている気がした。

僕は自転車のブレーキを直したばかりだ。カーテンの向こうはもう朝。僕は朝食の支度を始める。布団の中でそんなことを考えていた。