五反田の話

昔僕は五反田の編集プロダクションを辞めてから、そのまま、同じ五反田のマンションの五階で暮らしていた。僕は夜になるとそこで覚えたタバコの味を、ウイスキーを飲みながら、時々ベランダで嗜んでいた。今では珍しい、調光機能付きのルームライトを暗く灯しながら、向かいにあるマンションの窓を眺めていた。僕はそこで家賃が払えるか払えないかという、ギリギリのところではあったが、オークションでなんとか生計を立てていて、その日は、近所のローソンから以前にいた会社から記念に持ってきていた工具セットを出荷するところだった。その工具セットは銀色のアルミ仕様のケースかと思って受け取ったものだったが、指示を間違えていたようで、異なるプラスチックのケースのものだった。そのケースを出荷することで、なんとか、その月は越せそうだった。昼間は多種多様な会社での面接を繰り返し、夜間はそういった商品の出荷作業に追われていた僕は、当時、おやつ代がもったいなかったので、パンにピーナッツバターを塗って食べていたことをよく覚えている‥。しかし、ちょうどオークションサイトの隆盛期でもあったので、今のフリマアプリ以上に、いろいろな商品が買値以上の高値で取引されていたのだ。僕は、ある日カレーを近所に食べに出かけた。ポストに入っていたインド人のチラシの店だった。僕は食べ放題というワードに惹かれて行った店だったのだが、実際に食べてみると、カレー自体がかなり重く、何杯も食べるにはかなり厳しいように思われたので、作戦を変更し、カレーではなくはちみつの味がするデザートばかりを食べていたことを今でもよく覚えている。その店は、今はもう無いのだが。次に店の前を通ったのは目黒にあった、装飾ディスプレイ作成の会社に何年後かに入ってからのことだった。