透けたシャツの中に

金曜は早めに会社を上がり、僕の事前に調べておいた青山のお好み焼き屋へと足を運んだ。赤坂は坂が多いのでわりと疲れるが、美女も時々いるのでへこたれることはない。現れる、様々な種類の高級車にも、詳しくなれることだろう。でも、働いている人はあまり楽しげでもなく、かわいかった佐川女子との苦い思い出が、服の色に透けて見える…。それにしても僕は今でも、なぜ男というありふれた存在にはなっていないのだろう…。
店につくと、14時過ぎだったので客はいなかったが、徐々にテーブルに現れだす人たち。なかなか良い色のキャベツが焼かれる様子を横目で見ていた。評判の割にはどうということもない見てくれだったが、口にしてみると非常に複雑な味で、全体は不思議とふっくらとしていた。しかし、神田で食べたものと、少しキャベツの感じは似ていたが、そこまで、病院食のような健康食の色合いに塗り替わるというわけではなかった。
そそくさと外に出て、それから、次の場所へ歩いた。ああいった店に来る人は、その味だけでなく、ちょっとした小話をするという目的もあるのだろう。そう考えると、大人というのはかなり寂しい生き物のように見えた…。ただ、それは満たされるための、風俗を中心とした様々なビジネスのためものものではないだろう。店主はもう、定年をとっくに超えている年齢だ。歩いていると、まだ仕事中の人を多く見かけた。10年ぐらい前に面接した会社の建物。今はもう、きっと、会社の名前はポストの扉にはないのかもしれない。あの日咲いていたツツジの前に、それに見とれていたスーツの女がいたことを、僕は完全に覚えていた。