バス釣り屋のおじさんの話


昔、友人と僕は、アメリカに行ったことがあった。会社に入りたての、昔のことである。僕は釣具屋で、高卒でアメリカに行ったおじさんの話を聞いたことがあった。あれは失敗だったと言っていたおじさんが見たアメリカに思いを馳せる。アメリカの、人のことは気にしないと言った様相の、どこにでもある街角だ。金だけが、あらゆるものの、全てだった。金を払えばタクシーは走るし、よそを向いていた人間は振り返り、感謝の念を示す。誰かに、あとは、声を上げてみるだとか。でかい声で、道行く人に話しかけるのだ。そして、でかい声で、ピザを注文してみるだとかを。高校を出たおじさんはアメリカの空港を出て、何をしようとしていたのだろう。でも、きっと昔のことだから、今よりもチャンスは多様にあったのかもしれない。彼は、たぶんバスプロを目指していたのかも知れなかった。僕らも、同じようにJFK空港で降りたとき、大きなトランクに乗った同じような年頃の若者を見ていた。彼の顔は、ぼんやりとしていて、目の前の風景よりも、自分の頭の中にある何かの方が具体的に見えているような目をしていたのを、よく覚えている。