カンボジアの夜の最後のひととき

僕がかなり激しい雨の中をホテルに戻ると、僕のことをバイタクの彼がそこで待ってくれていた。暗やんだホテルのロビーで彼は僕に何か食ってきたのかと聞いた。僕がそうだと答えると、なんとなくどこかうれしそうだった。僕は彼が雨よけをセッティングしたバイクに乗るとさっそく走り出す。水たまりが多く道が荒れているのでバイクのほうが車より利便性はありそう。あきらかに底がこすれてしまうだろうから。商店の並ぶそこで街でも何度か見かけたビザ用の写真を販売している店を何件か見た。僕は日本人だからそんなものどこにいっても必要ないと思ってはいたのだが…。ライトの中を何事もなく少し走っていると、スマホをロビーで充電してもらっていたことを思い出した。大声というわけではないが、そのことを必死で後ろから訴えると、かれは嫌な顔ひとつせずにそこで一旦引き返してくれた。笑顔でそれを渡してくれたロビーでそれを受け取ると、また、バイクは走り出した。それから、彼は何度も雨で多少濡れてもかまわないかと聞いてくれた。日がさしていた着いてきた時に走っていた通り。雨ではなくその時は、とても晴れていたが…。暗がりの向こうに、アミューズメントパークのような光の施設。僕は、写真館のような建物も見た。施設で人を誘致しようとしているのがわかるが、ああいった遺跡にはかないっこないだろう。
雨の中を空港につくと、僕は彼に礼を言った。そして、ケチなのでチップは渡さなかった。ライトの下で彼の顔を見ると、何かを期待しているようにも見えたのだが。ただしかし、カネには結構厳格なホテルで、その精算は出る前に済ませていた。僕はこういった行為でバチを当てられるのだと、後で思い知ったのだが。